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横浜地方裁判所 昭和36年(む)58号 判決

申立人 桃井[金圭]次

決  定

(被告人・弁護人氏名略)

右弁護人から右被告人についての勾留の裁判に対する準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件申立を棄却する。

理由

(前略)

本件記録竝びに当裁判所に係属中の被告人に対する昭和三三年(わ)第五七八号傷害恐喝被告事件、昭和三六年(わ)第二一六号暴行被告事件の各記録によれば被告人は昭和三六年一月二六日被疑者は昭和三五年一一月二八日午後零時三〇分頃横浜市金沢区六浦町八〇五番地先道路上において同市同区同町七一八番地無職勝呂シメ子(三〇年)に対して「生意気なことをいうな」といつて同人の顔面を殴打する等の暴行をなしたものであるとの被疑事実により逮捕状を執行され、昭和三六年一月二八日右同一被疑事実につき横浜簡易裁判所裁判官寺岡健次郎の発する勾留状により刑事訴訟法第六〇条第一項第三号に定める事由ありとして勾留され、同年二月六日横浜簡易裁判所に同一事実により起訴されたが、右被告事件は同年二月九日横浜地方裁判所裁判官が同法第五条第一項によつてなした審判併合決定により同裁判所に係属中の被告人に対する傷害、恐喝被告事件に併合され、被告人は引続き右暴行被告事件により勾留されていることが認められる。よつて按ずるに、刑事訴訟法第六〇条第三項にいわゆる五百円以下の罰金、拘留又は科料にあたる事件とは、法定刑が五百円以下の罰金、拘留又は科料のみにあたる事件即ち右罰金、拘留又は科料のいずれか一つ、又はこれらの刑が選択刑として定められている罪にあたる事件をいい、これらの刑と懲役刑とが選択刑として定められている罪をふくまないと解するを相当とするから暴行被告事件が暴行罪について懲役刑を科しえない簡易裁判所に起訴された場合であつても、暴行罪には懲役刑が選択刑として定められているから、検察官の意図いかんにかかわらず刑事訴訟法第六〇条第三項にいう五百円以下の罰金、拘留又は科料にあたる事件には該当しないものといわねばならない。されば被告人の暴行被疑事実に基く本件勾留は、被告人に定まつた住居があるとしても所論のように刑事訴訟法第六〇条第三項に違背するものではないから、申立人の主張は既にこの点において理由がないばかりでなく本件暴行被疑事件記録によれば、被告人が前記暴行罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること及び逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由あることが認められるから被告人の本件暴行被疑事実につき刑事訴訟法第六〇条第一項第三号に定める事由ありとしてなされた本件勾留の裁判は相当であり、これを取消すべき理由はない。

(以下略)

(裁判官 吉田作穂 新海順次 惣脇春雄)

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